薬物療法を行う上での留意事項〜易怒性〜

周辺症状の相談で圧倒的に多いのが、怒りっぽさ、つまり『易怒性』です

易怒性と言っても、悪口を言う程度から、大声を出す、暴言を吐く、介護に対してつねったり、叩いたりする、時には椅子を振り上げるなど、様々です

薬物療法で、精神状態を穏やかにすることはそこまで難しいことではありませんが、傾眠や鎮静によるADLの低下、また、誤嚥による肺炎の発症、転倒による外傷など、有害事象には十分気をつけて行う必要があります。

薬剤選択にあたり、留意すべき点をいくつか列挙します

1.年齢

高齢になるほど、薬剤の影響が出やすくなります

効果が出やすいばかりでなく、薬剤の排出に時間がかかり、想定しているよりも長い時間作用が続くことも少なくありません

薬剤は少量から始め、頓用などを併用することが望ましいでしょう

例)易怒性の強い84歳男性

リスペリドン0.5ml 2包 分2朝夕で開始

流涎、傾眠などがみられるようになった

→リスペリドン0.5ml 1包は朝のみとし、夕の分は不穏が見られた際のみの使用としたところ、傾眠はなくなり、時折声を荒げる時は頓用としてリスペリドン0.5ml 1包を週に2回程度使用している

2.ポリファーマシー

向精神薬が複数少量ずつ使われており、長期安定していたが、不穏をきたし相談される事例は少なくありません

なるべく単剤で、使用する方が望ましいとされ、向精神薬を開始するときは極力単剤で挑みましょう

例)介護抵抗の強い82歳女性

リスペリドン0.5mg1錠 分1夕

クエチアピン12.5mg 2錠 分2朝夕

抑肝散 7.5g 分3毎食前

介護スタッフが体転や、おむつ交換で介入すると、つねったり、叩いたり、大声を上げるようになった

→抑肝散は恐らく効果を発揮しておらず、中止

リスペリドンとクエチアピンは本来どちらが効果を発揮していたのか不明…

Cre 1.5と軽度腎機能障害を認めるため、リスペリドンを中止し、主に肝臓で代謝されるクエチアピンを主剤とする方針に

クエチアピン25mg2錠分2朝夕とし、頓用はクエチアピン12.5mg

介入が多くなる午後に備えて、昼頃に頓用を使うと介護抵抗がなくなるとの報告があり、クエチアピンを毎食後、用量は25-12.5-25mgを定期化し、その後は頓用使用はない

3. ADL、認知機能障害の程度

ADLの程度は薬剤選択に影響します

ADLの程度だけでも

寝たきりとなっている

歩行はできないが、介助があれば、車椅子には乗る

介助なしに車椅子に乗って自身で操作する

歩行はするが介助を要する

自立歩行

など、段階がかなり細かく分類できます

ADL低下しており、転倒リスクの低い方では、誤嚥性肺炎の発症に留意しましょう

ADLが維持されているからと言って、薬をたくさん使わないと効かないことはなく、誤嚥リスクに加えて転倒リスクが上がると想定して置く必要があります

ベッドを低くする、ベッド横にセンサーマットを設置するなど、転倒防止の策が必要です。

また、認知機能の程度も考慮する必要があり、転倒リスクに一定の理解の有無がキーになります

認知機能障害により、徘徊などある方、帰宅願望を訴えて事務所に度々声をかける方、杖歩行にも関わらず、杖を持つのを忘れる方など、転倒リスクの高い方のリスト化などを行い、ベッド近くにマーキングするなど、スタッフ間での情報交換も必須です

4. 誤嚥リスクの評価

脳梗塞、パーキンソン病などの神経変性疾患、アルツハイマー病を始めとする認知症や、廃用症候群など、高齢者に併存する疾患により、嚥下機能低下のリスクが潜在的に高いとされます

易怒性に対する治療を行う上で、治療選択の候補にあがる薬は

・抑肝散などの漢方薬

・ミルタザピンやトラゾドン、テトラミドなど鎮静作用のある抗うつ薬

・抗てんかん薬

・抗精神病薬

など、列挙した順に誤嚥リスクが上がる傾向にあります

より誤嚥リスクの低い薬剤を選択し、低用量からの開始を心がけましょう

個別の薬剤についての解説はこちらから参照してみてください